田園通信
2025年10月30日 [眼科 東戸塚]
緑内障シリーズ9話:緑内障は治るの?
東戸塚田園眼科です。今回は、緑内障の方から多い質問、「緑内障って治るのですか?」に対して、お答えしてみたいと思います。
近視の方に知ってほしい、近視の目が持つ緑内障の課題
※ロービジョンケア:視覚障害によって日常生活に支障をきたしている人に対し、医療・教育・職業・社会・福祉・心理といった多方面から行う支援の総称です。視力や視野の回復が難しい場合でも、残された視機能を最大限に活かすための方法や、生活の質を向上させるための補助具の選定・使い方指導、社会福祉制度の活用などが含まれます。
緑内障は治らない、でも治らなくても良い
残念ながら、緑内障は治りません。いったん欠けた視野は、元にはもどりません。【緑内障シリーズ1話】でお伝えしましたように、緑内障は情報を脳へ伝える役目の網膜神経線維が失われる病気ですから、戻るはずはないのです。また、緑内障は、基本的には進行します。悲観的なことばかり書いて叱られるかもしれませんが、現実です。しかし、【緑内障シリーズ5話】でお伝えしましたように、われわれは、眼圧を十分に下げることで進行をスローダウンさせることができるのも事実です。進行がスローダウンして、自分が生きている間は、歩いたり、階段を下りたり、運転したり、スマホを見たり、お友達の顔を見ながらおしゃべりしたりと、これまで行ってきたことを自分の目で安全に続けることができたら、それで良いと考えて治療努力を行う病気なのです。この目的を達成する鍵は、早期発見と治療の最適化(十分な眼圧下降)です。早期発見の意義
早く発見できるということは、網膜神経線維がたくさん残っているということです。視野がたくさん残っていると言えなくもないのですが、網膜神経線維が50%失われないと視野検査で異常とならないという話もありますから、やはりめざすべきは、網膜神経線維がたくさん残っている間に発見できることを目標に起きたいと考えています。そのために、眼科の検査室に置いてある光干渉断層計(OCT)が役に立ちます。緑内障の検査を受けたことがない方は、一度は受けていただきたいと思います。特に、近視が強い方は、20代〜30代という若いときから緑内障が始まっている方もいますので、気を付けていただきたいと思います。近視の方に知ってほしい、近視の目が持つ緑内障の課題
眼圧の面からみた「十分な眼圧下降」
すでに視野障害がある方は、治療で眼圧を十分に下げて進行にブレーキをかけます。この「十分に眼圧を下げる」ことが重要であるとともに簡単ではありません。【緑内障シリーズ2話】でお伝えしたように、緑内障は、いろいろなタイプがあり、なんらかの原因で眼圧が上がって起きる続発緑内障や房水の出口が狭まることが原因で眼圧が上がる原発閉塞隅角緑内障は、まず原因を解除することで眼圧を正常まで下げます。原因解除だけでは眼圧が正常化しない場合、あるいは、眼圧が正常になっても、視野障害が進行する場合は、点眼薬でさらに眼圧を下げます。原因がはっきりしない原発開放隅角緑内障の場合は、まず点眼薬またはレーザー治療で眼圧を下げます。【緑内障シリーズ5話】でお伝えしましたように、日本人には、眼圧が正常範囲の原発開放隅角緑内障、すなわち正常眼圧緑内障が多く、十分に下げるためには独特の考え方が必要です。【緑内障シリーズ6話】でお伝えしましたように、正常眼圧緑内障の場合、治療を開始する前の眼圧が重要で、眼圧を、この治療前眼圧から20〜30%下げると視野の進行に大きなブレーキがかかることが米国で証明されています。視野の面からみた「十分な眼圧下降」
眼圧が十分に下がったように見えても、それでは十分な眼圧下降を得ているかどうかわかりません。【緑内障シリーズ8話】でお伝えしましたように、視野検査を何度も何度も続けることで、十分に下がっているかどうかを判定していきます。視野検査は、体調や集中力の影響を受けやすく、回数が少ないと進行傾向を読めませんが、7回〜10回くらい続けると、視野が年にどれくらい減っているか?このまま進めば何歳で生活に困り始め、何歳で見えなくなるか?という予測が立ってきます。その予測に応じて、治療の強さ、すなわち、緑内障点眼剤増加や手術を検討します。100歳まで生活に困らない、あるいは120歳で見えなくなるという予測であれば、今の治療で十分といえます。自分の視野障害のパターンを知り生活を安全に
以上は、治療の本質のお話しでしたが、日常生活の面では、緑内障の方は、ずっと視野が欠けたままで生活せねばなりません。例えば、欠けている場所が下方なら階段や歩行中の段差に注意せねばなりません。左方の視野が欠けているなら、運転の左折時には注意が必要です。ご自分の視野障害のパターンを熟知して、安全に日常生活を送る知恵を身に付けることが大切です。ロービジョンケアも忘れないで
これをお読みになられた方が、すでに重い視野障害でお困りの場合はどうしたら良いでしょう?もちろん、治療の最適化と視野障害のパターンを熟知して安全にお暮しいただくことは、同じですが、それだけでは足りないことが多いです。そこで大事になるのが、ロービジョンケア※です。教育やその人に合った拡大鏡などの道具をうまく使うトレーニングで、残っている視野を有効に使って、生活の質を維持していきます。※ロービジョンケア:視覚障害によって日常生活に支障をきたしている人に対し、医療・教育・職業・社会・福祉・心理といった多方面から行う支援の総称です。視力や視野の回復が難しい場合でも、残された視機能を最大限に活かすための方法や、生活の質を向上させるための補助具の選定・使い方指導、社会福祉制度の活用などが含まれます。
緑内障こそかかりつけ医が大切
治らない病気である緑内障こそ、あなたの緑内障の状態を理解してもらっている、かかりつけ眼科医が重要です。緑内障の長い闘いに寄り添ってくれる眼科医と巡り合っていただきたいと思います。





